✏心不全治療薬 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)「エンレスト」についてまとめてみた
門前の先生は循環器が専門で興味があるということなので、発売されたら処方があるかも!?
というわけで、今回は、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)「エンレスト」について調べました!
添付文書などの詳細はこちらからどうぞ。
医療用医薬品 添付文書等情報検索 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
エンレスト基本情報
一般名:サクビトリルバルサルタン
商品名:エンレスト
名前の由来:Entrust(信頼できる薬剤)に由来
すごいネーミングですね。本当に信頼でき・・いや、やめておこう・・・。
薬理作用:
バルサルタンによるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAAS)抑制作用に加え、サクビトリルによるネプリライシン(NEP)阻害作用を有する新規の薬剤。
NEP阻害により、生理活性を有するナトリウム利尿ペプチドの循環血中濃度が上昇し、ナトリウム排泄作用、利尿作用、抗肥大作用、抗線維化作用、及び血管拡張作用を示す。
効能効果:
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
→ACE阻害薬/ARBの前治療のない日本人患者に投与した場合には、有害事象(低血圧、高カリウム血症、腎機能障害、血管浮腫等)の発現リスクがPARALLEL-HF試験での結果よりも高くなる可能性があることから、原則として既にACE阻害薬/ARBの投与がされ、血圧が良好に維持されていることを含め、ACE阻害薬/ARBに対する忍容性が確認された慢性心不全患者に対しての選択肢の1つとして承認
有効成分:
エンレスト50mg:サクビトリル24.3mg、バルサルタン25.7mgに相当
エンレスト100mg:サクビトリル48.6mg、バルサルタン51.4mgに相当
エンレスト200mg:サクビトリル97.2mg、バルサルタン102.8mgに相当
※ 添付文書では「50mg錠と100mg錠又は200mg錠の生物学的同等性は示されていないため、100mg以上の用量を投与する際には50mg錠を使用しないこと。」とされていることに注意!
全部の規格をそろえないといけないのか、めんd・・いや、やめておこう・・・
用法用量:
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。
忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。
1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
併用禁忌:
ACE阻害薬服用中、服用中止後36時間以内→血管浮腫のリスク増加
糖尿病患者でラジレス服用中→非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症、低血圧
がバルサルタンで報告
一包化:可能 バラ錠あり
薬価:未収載 R2.7.27現在
主な臨床成績
安全性
・肝機能障害患者
軽度~中等度肝機能障害患者(Child-Pugh 分類A、B)では、サクビトリルのCmax は健康成人とほぼ同程度、AUC は健康成人の約 1.5~1.9 倍。
バルサルタンの Cmax は健康成人とほぼ同程度、AUC は健康成人の 1.2~2.1 倍。
重度の肝機能障害(Child-Pugh 分類 C)は、中等度の肝機能障害患者よりも曝露量が増加する可能性があり、臨床試験では、重度の肝機能障害患者は、除外されており、推奨される用法・用量が不明であることから、禁忌と設定。
・腎機能障害患者
軽度(Ccr: ≧50mL/min~≦80mL/min)、中等度(Ccr:≧30mL/min~<50mL/min)の腎機能障害患者では、サクビトリルのCmax 及び AUC は健康成人のそれぞれ約 1.5~1.6 倍及び約 2.1~2.2 倍。
バルサルタンのCmaxは健康成人とほぼ同程度、AUC は健康成人の約 1.0~1.4 倍。
重度(Ccr:<30mL/min)の腎機能障害患者では、サクビトリルのCmax 及び AUC は健康成人のそれぞれ約 1.6 倍及び約 2.7 倍。
バルサルタンのCmax及び AUC は健康成人のそれぞれ約 0.9 倍及び約1.3 倍。
・低血圧、高カリウム血症
エンレスト200mg1日2回だと既承認のバルサルタンの最大用量160mgを超えるため、低血圧や高カリウム血症には要注意!
検査上の注意点
エンレスト投与後にBNP は一時的に上昇し、4 週間後でも高値を維持した後、8 カ月後まで徐々に低下する傾向。
NT-proBNP は、エンレスト投与後に低下し、8 カ月後まで低値を維持。
そのため、BNP が定常状態に到達するまでは、臨床的な解釈の混乱を避けるため NT-proBNP を測定することが望ましいとされています。
一方で、エンレスト投与後に BNP が定常状態に到達する時期は、疾患進行、他の心不全治療、合併症(肺疾患、腎疾患等)等の患者の状態により異なるため、エンレスト投与開始からどの程度の期間が経過すれば、BNP が心不全の状態の観察に使用可能となるかを提示することは困難であるとされています。
添付文書では「本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質であるBNPの上昇がみられることから、本剤投与後に BNPを測定する際は値の解釈に注意すること。」という表記になっています。
私のエリアの基幹病院では、今後心不全の検査値は、NT-proBNPを採用することが決定しているようです。
今までBNPの数値しか見たことないので勉強せねば・・・
考察・感想
PARADIGM-HF 試験などの臨床試験の結果により、海外のガイドラインでは、ACE阻害薬/ARBに忍容性があり、NYHA 心機能分類Ⅱ~Ⅲ度のHFrEF患者に対して、疾病・死亡リスクを更に低下させるためにACE阻害薬/ARBからの切替えが推奨されています。
ですが、日本人での有効性を検証したPARALLEL-HF試験では、エナラプリルに対する有効性が確認できなかったことから、海外の臨床試験のデータをそのまま日本人に当てはめて考えるには、慎重になる必要がありそうです。
もう少し症例数を増やせば、有意差が出たはずという声もあるようですが、PARALLEL-HF試験は、事前に計算したサンプルサイズは満たしていることから、症例数を増やして有意差が出たとしても、PARADIGM-HF 試験の結果ほどではないのではないかと思ってみたり・・・。
まぁ、エナラプリルを対照とした試験のため、エンレストの有効性自体が否定された訳ではないし、新しい選択肢が増えたことは良いことなのかなぁ~
低血圧や高カリウム血症などの有害事象、併用薬にACE阻害薬/ARBがないか確認など、薬剤師も気を付けないといけないポイントがたくさんある薬だと思うので、採用になったら頑張ろ!!
いかがでしたでしょうか?
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参考:エンレスト錠添付文書、インタビューフォーム、審査報告書